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チームからイノベーションは生まれない

IMD World Digital Competitiveness Ranking 2019

10月9日開催のワールドマーケティングサミット東京2019は、ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院教授のフィリップ・コトラー氏の基調講演に続き、富士フイルムホールディングス代表取締役会長兼CEO 古森 重隆氏、ネスレ日本代表取締役社長兼CEO 高岡 浩三氏が登壇。朝の締めくくりに、スイスのビジネススクールIMDの北東アジア代表、高津 尚志氏がモデレーターとなりパネルディスカッションが行われました。

30年逆風をうける日本のデジタル競争力

まず高津氏がプレゼンテーション。IMDが1989年から世界63カ国を対象に実施する世界競争力ランキング「IMD World Digital Competitiveness Ranking 2019PDFダウンロードおよびプレスリリース)」を参照し、世界最低となった日本の調査結果を解説しました。

IMD世界競争力ランキングは、デジタル技術が企業、政府、社会にもたらす経済的な変化を、各国の調査機関(筆者補足:日本は三菱総合研究所)とともに格付けしたもの。高津氏はこれを、「企業が持続的な価値創造、利益創出、雇用創造、環境保全を行える環境を生むことができているか」を表す指標、すなわち各国の経済的生態系を示すものとして読み解きました。

IMD世界競争力ランキングの調査内容は数値と経営者アンケートで構成。200~300種に上るデータを「インフラ」、「経済状況」、「政府の効率性」、「ビジネス効率性」の4つに分類して競争力指標を示します。今回の回答者は世界で約6400名でした。

今回の総合1位はシンガポール、以下は香港、米国、スイス、アラブ首長国連邦が順に次ぎました。その他の高順位の国はヨーロッパの小国など。そして1992年まで1位(筆者引用:三菱総合研究所)だった日本の総合順位は今回、30位に落ちました。

日本の問題はビジネス効率性

高津氏は、この20年にわたる日本の長き低落傾向を、上記4分類に沿って説明。まずインフラは低落傾向ではあるものの、今回15位と高止まり。一方、アベノミクス効果などから、経済、政府は上昇しています。つまり一番の問題はビジネス効率性の低下なのです。

日本のビジネス効率性は、2014年の19位から5年で46位へと急激に落ちています。中でも日本が世界最低な項目は

  • 「企業の順応性(Agility of companies)」63国中63位
  • 「起業家精神(Opportunities and threats)」63国中63位
  • 「国際経験(International experience)」63国中63位
  • 「ビッグデータとアナリティクスの活用(Use of big data and analytics)」63国中63位

と衝撃的です。

この調査データのもとになっている経営者アンケートの回答者は、国際経験ある日本人および外国人からなる、日本経済のインサイダー。その回答内容のここまでの悪化は、「日本の経営者、日本を知る経営者のフラストレーション、焦り、そして怒りが表れている」と高津氏は分析しました。

一方で高津氏は、日本の「人材の獲得と維持」4位、「顧客満足」4位、「社会的責任」5位といった高順位項目を上げ、「日本は善意の国、ただし世界の現実と乖離している」と伸べました。

IMD調査日本ビジネス悪化
IMD調査日本善意の国

日本が誇れる安全とロボット

それに対しコトラー氏は、「それは驚きだ、日本の経営者たちは課題解決に向けて話し合っているのですか?」「良いニュースはないものですか?」とつっこむ場面も。

そこで高津氏は「ヘルスケアが行き届き、健康、安全などの社会的安定性が高い、殺人が少ない」「環境技術への意識、ロボットの普及率が高い」といった日本が評価される点を説明しました。

ホワイトカラー余りを打破する政策

経営学の父として知られる故ピーター・ドラッカーは、企業の成功にはイノベーションとマーケティングの両輪が不可欠、と提唱しました。しかし、この点について高岡氏は、「日本はイノベーションを経営そのものと捉えていない」と指摘。

フィリップ・コトラー氏

先に述べたマーケティング視点で見た「新しい問題」に踏み込み、「人材不足というが、それはブルーカラーの話。労働現場の人は足りないが、ネクタイを締めているホワイトカラーは生産性が悪く余っているだけでなく、ダイバーシティが欠けている」「これはほぼ単一民族として移民政策を取ってこなかった日本の問題」と指摘を続けました。

その対策としてネスレの高岡氏は、新卒の通年採用や自然減を促す人事政策により、10年かけて3000人の社員を2500人に減らし、最適化したという体験談を共有しました。

小さく始めて失敗から学べ

ここで高津氏が来場者に質問。「自社のマーケティングは10点中何点ですか?「自社のイノベーションは10点中何点ですか?」という問いに、挙手での回答を求めました。結果、マーケティング成熟度は3~6点、イノベーション成熟度は1~6点に分布するという、低めの自己評価が出ました。

それを見てコトラー氏は、ベンチャー企業への投資企業、VCとの話しを例に「投資家は、10社中9社が起業に失敗しても、1社が成功したらそれで利益を得られる。1社がすべてを支払ってくれる」と述べ、失敗を恐れないことの重要性を伝えました。

さらに、完璧を求めがちな日本の経営者に対し、『リーン・スタートアップ』著者、エリック・リース氏が提唱するリーン・マーケティングを紹介。アイディアをもとに完全な製品を作ろうとするのでなく、「アイディアをとりあえず形にして市場に出し、失敗から学びながら、時間をかけて完成させる」ことを薦めました。

「チームでイノベーション」の幻想

ネスレで常に変革を続ける高岡氏は、スイス本社から「どうして日本は?」と常に聞かれる自らの環境を挙げ、「新しい視点を持つことがダイバーシティのカギ」「シリコンバレーの成功者も移民の2世、3世」と述べました。

そして、ネスレが2011年から毎年実施しているイノベーションアワードによる文化作りを紹介。当初は3000人中79人しか応募がなかったアワードも、今では2500人から5000件、ひとりあたり2件応募するまでに大きくなっています。このアワード応募の要は、個人エントリーのみであること。高岡氏は、「チームワークからイノベーションは生まれない」と断言しました。

高岡浩三氏

日本の栄光と未来

コトラー氏は、「日本は世界に“改善”を教えイノベーティブだった」と激励。最後に高津氏は、IMD世界競争力ランキングに表れる経営者の危機感、焦燥感について、「慢心しない、自己満足にならない姿」ととらえ、未来の明るさを示唆しました。


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